東京ドーム4公演が満員になったから、それを一日でさばけば20万人になる。小学生でもできる計算だが、これを現実のものとするためには、物 理的に様々な壁が立ちはだかる。新聞やテレビでもこの巨大なイベントはいろいろな形で報道されるだろう。GLAYの4人と、20万人のファンによる盛大な 夏祭り。しかし僕はあえて言おう。このライブにおける主役は、GLAYを支えた、総勢2000人に上るクルーであったと。
7月31日。この日僕に起こった出来事を書いていたら、おそらく1冊の本になる。それくらい長い一日だった。だからここではライブに関してのみ書くことにしよう。
ライブ会場から数百メートルの位置にEXPO館というGLAYの博物館があり、僕はそこにあるバギクラ(Buggy Crash Night)ブースにレポーターとして常駐していた。だからライブ会場に向かったのは他の観客よりも遅い方だったと思う。幕張はとてつもなく広かった。本 当にとてつもなく。EXPO館からライブ会場までの道は決して狭くなかったし、導線には特に問題もなかったと思うが、やはり混雑は避けられず、数百メート ルの道を進むのに観客達は30分以上を要したらしい。ちなみにこのEXPO館に入る時点で、2時間以上待たされている人が殆どである。だからこのEXPO 館に入るのを諦めて直接ライブ会場に入った人も多かったようだが、いずれにしろ、ライブを見る場所に辿り着くまでにかなりの体力を消耗している。雲ひとつ ないピーカンだった。雨が降るのは困るが、なにもここまでいい天気にならなくてもいいのに。
僕はその「人の渋滞」を避け、グルリと大回りをして関係者口に向かうことにした。距離にしておそらく2キロぐらいは歩いただろう。ライブを見るまえにもう何もかもウンザリである。
ステージセットはおそらく、10階建てのビルぐらいの高さはあっただろう。ひょっとするともっとかも。ストーンズだのU2だの、僕もいろいろと大きなラ イブを見てきたが、これほどのスケールは当然初めて見た。ただ意外だったのは、そのステージが案外シンプルだったことだ。スタジアムツアーやドームツアー の時のように、特別テーマもないようだった。殆ど骨組みだけの巨大なセットは、半ば不気味な姿で20万人の前に立ちはだかっていた。
客席は前後に細長くなっていて、一番後ろはステージからどれくらい離れているのか、目測ではとても見当がつかない。4時半の時点では観客はまだ行列を 作っていて、もうずっと前にこの幕張に着いていながら、中に入れずにいる客も多かったらしいが、きっちり予定通りの時刻にライブはスタートした。
ビジョンにはSEに合わせた映像が映し出される。今日のキーボードは佐久間正英さんらしい。ドラムの永井利光と、4人のメンバー。6人の紹介が画面上で終わる と、ついに彼等は炎天下の幕張に姿を現わした。嵐のような歓声が沸く。さっきまで砂漠で遭難したかのような顔で座り込んでいた女の子も、急に息を吹き返し て飛び跳ねている。ようやく始まったのだ。これからの時間を楽しむために、苦労してここまで来たのだ。
1曲目は大穴ともいえる「HAPPY SWING」だった。この曲をライブのオープニングで聞いたのはさすがに初めてだ。「もう感動しているよ」というTERUのMCがあって、「口唇」「グロ リアス」と続く。会場は当然のように盛り上がっているが、みんなビジョンに映るメンバーに向かって手を振っている。彼等はメインステージにはいないのだ。 実はこの時点で、僕にはメンバーがどこにいるのかわかっていなかった。
巨大なステージから、客席の真ん中に向けて長い長い花道が走っていた。どうも彼等はその先端にいるらしい。僕はこの時どこにいたかというと、上手側の一 番端。この付近には全国から招待された膨大な数のマスコミ関係者が集まっていた。芸能人や有名なバンドのメンバーもたくさん見かけた。
その位置からは、どう背伸びをしてもメンバーの姿は確認できない。そのまま「SHUTTER SPEEDSのテーマ」「More than Love」とノリのいい曲を連発していく。その場所でライブを始めたのは、一番後ろにいる人にも平等にライブを楽しんでもらうための、彼等なりの配慮なの だろう。5曲が終了した時点で、ピンクパンサーのテーマがSEとして流れ、小さなサブステージは巨大なメインステージに向かって何と自動的にスライドして いった。凱旋パレードでもするように観客に手を振りながら、ゴンドラでメインステージに上がると、客席からどよめきと大きな拍手。もう暑さなんてみんな忘 れている。
4人は僕が思っていたよりも緊張していないようだった。このスケールは彼等にとっても当然未知の領域である。プレッシャーも尋常ではないレベルだったこ とだろう。しかしそういうことよりも、これだけたくさんのファンに会えたことの喜びが遥かに勝っているらしい。4人はいつものライブよりもさらにテンショ ンが高くて、楽しそうだった。
メインステージから、いよいよ仕切り直し。「サバイバル」から「生きてく強さ」、そして「Yes, Summerdays」と続けていく。太陽はすでに傾いて、海風が気持ちよく頬を撫でていった。ニューシングルのカップリングとなる「summer FM」を披露し、ライブでは本当に久しぶりに聞いた「INNOCENCE」と「Freeze My Love」が続いた。この選曲、悩んだんだろうなあ。
「HOWEVER」、新曲の「ここではないどこかへ」の後、何と「LADY CLOSE」と「TWO BELL SILENCE」という2曲。しかもスクリーンには、メジャーデビュー当時のライブ映像が織り込まれていた。まだ長髪のTERUが歌っている。僕も画面に見入ってしまった。その後のMCでは、さすがに照れを隠せない様子だった。「HAPPY SWING」でライブが始まったことも、こんな映像を流しちゃうことも、GLAYの自信と遊び心のなせるワザ。ファンと同じように、自分達の昔の曲を愛している彼等が好きだ。
特効や演出の少なさは驚きに値するレベルだった。ドームツアーの時は、殆ど全部の曲で何らかの仕掛けがあって、ショウとしての要素を前面に出していた。 今回はさらに客の数が増えるわけだからそれ以上の演出も予想されたが、実際には逆だった。このGLAY EXPOは単なるライブではなく、EXPO館における展覧会や、ライブ前の仮想ラジオ局など、さまざまな要素を合わせた一大夏祭なのである。ライブはその 一部でしかないともいえる。だったらライブはライブとして、ショウ的な要素を排除し、極力演奏だけを集中して聞いてもらおうという考え方だろうか。20万 人の客を、演奏だけで満足させてやろうというのも大した挑戦である。
「僕達の尊敬している人がこの空の上で見ているはずだから」というようなMCの後、GLAYは「MISERY」を歌った。hideのトリビュート盤で彼 等がカバーした曲である。僕はこの曲のオリジナルが大好きだったし、GLAYのカバーも彼等らしさが出ていて見事だと思った。このカバーによってGLAY の実力を否応無しに見せつけられたhideファンも多かったはずだ。しかしまさかその曲を、このライブで披露するとは。この日一番僕を驚かせた選曲だっ た。そして一番嬉しくて、一番感動した瞬間でもあった。
僕はこの日、NACK5での生放送の仕事があったので、この時点で後ろに下がって見ていた。ライブを最後まで見届けたい気持ちは当然あったが、観客と一 緒に帰ろうとしたら、いつ局にたどり着けるかわからない。本編終了直前あたりで会場を出るのが賢明と思われたので、ひとまず出口の近くに移動したのだ。
それと、後ろで見ていた理由はもうひとつあった。一番後ろの観客が、このライブをどこまで楽しんでいるのかを確かめたかったのである。
一番後ろのブロックまで、観客はビッシリと埋っていた。ライブの演奏中でも、食料を買っている人や、座って談笑している人もたくさんいる。この辺りまで 来ると、ライブの楽しみ方はかなり自由になってくるようだ。しかし驚いたのは、大半の客が、純粋にライブを楽しんで参加していることだった。もっともっ と、「もうライブなんてどうでもいいよ」的な空気が流れているのかと思ったらとんでもない。続いて披露された「誘惑」では、待ってましたといわんばかりに みんな元気に手を振っている。ステージまでは距離にして500メートルぐらいはあるだろう。演奏するメンバーの姿など、肉眼ではとても確認できない。たま にジャンプしたりしたときに、「あ、動いたような気がする」という程度である。それでもスクリーンに向かってメンバーの名を叫び、手を振って歌っている。 信じられなかった。GLAYというバンドはどこまで凄いんだ。
僕はこの「誘惑」の途中で会場を出た。外にも人は鈴なりだ。この人達はチケットを買ったのだろうか。買ってあえてここで見ているのだろうか。会場の中に入って一番後ろで見るのも、外の階段のところで見るのも、距離はあまり変わらない。
帰りにEXPO館に寄って荷物を取っていく必要があったので、僕は出口からまっすぐEXPO館に続く歩行者用連絡橋に上った。階段を上がると、後ろから このライブ会場を見下ろす形になった。僕はこの時初めて、このライブ会場を一望した。そして思わず「うわぁ」と声を出してしまった。メンバーはこの景色 を、反対側から見て演奏していることになる。僕だったらめまいを起こして倒れてしまうだろう。見渡す限り人の頭である。
そして僕は非常に興味深いものを目撃した。
曲のサビになると、人さし指を前に向けて腕を前後させるあの独特の振り。音が届く時間のずれによって、この手の動きも微妙にずれるというのは、スタジア ムクラスのライブ会場なら見たことのある光景だ。しかしここで見るそれは、そんな半端なものではなかった。ここには20万人が、ひとつの平面に集まってい る。いうなれば全部アリーナ席だ。そしてステージから一番後ろのブロックまでの距離は500メートル以上ときている。音の速さは秒速340メートルだっ け?ということは、ステージで出された音が一番後ろに届くまで、2秒近くかかることになる。客の手の振りも、それだけ遅れる。これを上から眺めるとどうな るか、想像していただきたい。
波のようになるのだ。手の振りによって、次々に波が後ろに向かって押し寄せるように見える。ウェーブと同じ原理。とんでもなく速いウェーブだ。多分こん なものは一生に一度しか見ることができないだろう。僕は階段に座って、しばらくこの「音速のウェーブ」を目に焼き付けていた。
「COME ON!!」に入った時に、僕は会場から離れた。歩いていたら後ろから「ACID HEAD」が聞こえてきた。盛り上がってるんだろうなぁ、とちょっと寂しかったが仕事だからしかたがない。
まだガラガラの京葉線に乗ると、電車の窓から会場が見えた。車内にいた乗客は誰もが窓に駆け寄って「うわぁ、すげー」などと声を上げていた。実際電車から見る会場はまたひときわ大きく見えた。20万人は多い。こんなに多いとは思わなかった。
アンコールを僕は見られなかったわけだが、「I'm yours」で始まり、「BE WITH YOU」「I'm in Love」「彼女の"Modern..."」「ビリビリクラッシュメン」「BURST」という選曲だったらしい。さて、あなたの感想はいかがだったのだろうか。
何もかもが僕の予想を越えていた。人の多さや暑さもさることながら、会場の広さ、アクセスの悪さなど、とにかく「大変」だった。こんな場所に行くのはもう二度とイヤだ。
しかし自分でも一番驚いたのは、予想以上に「楽しかった」ということである。疲れなど忘れるくらいにみんなが嬉しそうに盛り上がっていた。その表情を見ただけでも、ここに来た価値はあったと僕は思ったのだ。
何もかもが予想以上だったと感じたのは、きっとスタッフも同じだろう。次々に起こるアクシデントや、まったく予期しなかったトラブルの連続で、トイレに 行く暇さえなかったに違いない。20万人を1ヵ所に集めるライブイベントなど、何せこの国では初めてのことなのだ。考えてみてほしい。トイレの数はどれく らい必要か。食料品販売ブースはどれくらい必要か。客の交通手段はどのように確保するか。ケガ人や病人にはどう対処するか。そういったこと一つ一つを綿密 に計算し、シミュレーションを重ねて当日を迎えた。それでも次々に起こる不測の事態。スタッフの数は2000人といわれたが、会場から駅までを案内してい るような警備員や、警察官や駅員、グッズや食料の販売員など、このライブに協力したすべての人の数を合わせたら、1万人ぐらいになるかもしれない。このラ イブのMVPは、その人達なのだと僕は感じた。メンバーとファンが最高の笑顔を見せるために、膨大な数のスタッフが、想像を絶する苦労を重ねてこのライブ は実現したのだ。イベントが無事に終了したことで、果たして何人のスタッフが涙を流したのだろうか。GLAYを支えるすべての人々に、僕は心から「お疲れ さま」と言いたい。彼等の働きは、本当に賞賛に値すると思うから。
いろんな意味で、GLAYでなければ実現できない素晴しいイベントだった。この一日はやがて伝説となり、語り継がれることだろう。20万人の一人としてこのイベントに参加できたことを僕は誇りに思う。GLAY最高。